示衆(44)「若人求道、是人失道」(もし人が道を求めれば、人は道を失う)「臨済録」より

2023-05-29

古典 臨済録

臨済録原文全文

 

こんにちは、暖淡堂です。

「示衆」の44回目です。

臨済の下に集まった修行僧たちへの言葉が続きます。

いつまでも自分自身を認めることができない人たちに向かって語ります。

無駄なことはするな、と。



臨済録の原文全文は以下のリンクからご確認ください。 

「喝!!」の声が戦乱と混沌の世に響いた 臨済の生きた時代


  

爾一念心、祇向空拳指上生寔解、根境法中虛捏怪。

君たちは一念の心で、ただ何も握られていない拳の指先が示すところに真実の答えがあると思い、物事の現れにすぎない世の中に怪しげなものを作り上げる。


自輕而退屈言、我是凡夫、他是聖人。

自らを軽んじ無理に身を屈めて、我は凡夫、彼は聖人だ、などと言っている。


禿屢生、有甚死急、披他師子皮、卻作野干鳴。

愚かな坊主たちよ、生死の境に耐えてまで、わざわざあの獅子の皮を被り、野干(ジャッカルに似た獣)の声で鳴くのか。


大丈夫漢、不作丈夫氣息、自家屋裡物不肯信、祇麼向外覓、上他古人閑名句、倚陰博陽、不能特達。

君たちのような立派な者たちが、まともな息遣いもせず、すでに自分にあるものを信じず、ただ外に向かって求め続け、昔の人が言った無駄な言葉に過ぎないものの上にのり、陰陽の卦の意味に振り回されて、どこにも辿り着くことができない。


逢境便緣、逢塵便執、觸處惑起、自無准定。

世の出来事に出会えば引きずられ、物を見たなら執われ、なにかに触れるたびに惑い、さっぱり自分が定まらない。


道流、莫取山僧說處。

諸君、私の説くところをまともに受け取ってはいけない。


何故。

なぜか。


說無憑據、一期間圖畫虛空、如彩畫像等喻。

私の説くところは根拠がない、しばらくのあいだ虚空に絵を描き、その絵に色をつけたかのようなものなのだ。


道流、莫將佛為究竟。

諸君、仏を究極のものとしてはいけない。


我見猶如廁孔、菩薩羅漢、盡是枷鎖、縛人底物。

それは厠の穴のようなもの、菩薩羅漢など、ただの手枷足枷、人を縛るだけのもの。


所以文殊仗劍、殺於瞿曇、鴦掘持刀、害於釋氏。

それゆえ文殊は剣をつかみ、瞿曇(ぐどん:ゴータマ)を殺そうとし、鴦掘(おうくつ:アングリマーラ)は刀を持って、釈尊を害そうとしたのだ。


道流、無佛可得。

諸君、得られる仏などない。


乃至三乘五性、圓頓教跡、皆是一期藥病相治、並無實法。

三乗も五性も、圓頓の教えも、みな病に応じて一時的に処方した薬のようなもの、そこに真実の法などない。


設有、皆是相似、表顯路布、文字差排、且如是說。

たとえあったとしても、すべてなにかに似ているだけのもの、封もせずに渡す知らせ、文字の並べ替え、もっともらしく説いているだけのものにすぎない。


道流、有一般禿子、便向裡許著功、擬求出世之法。

諸君、世の中には物事のわからない坊主がいて、内側に向かって努力をして、出世する法を求めたりしている。


錯了也。

まったく無駄なことだ。


若人求佛、是人失佛。

もし人が仏を求めれば、人は仏を失う。


若人求道、是人失道。

もし人が道を求めれば、人は道を失う。


若人求祖、是人失祖。

もし人が祖を求めれば、人は祖を失うのだ。


 

臨済は自らの言葉さえ、病に追いじて処方した薬だ、と言います。

もっともらしく説いているだけだ、と。

自分の外に向かって求め続けることはやめよ。

まったく無駄なことだ。

そこに求めることで、むしろ失ってしまうのだ。

そう臨済は言います。


*****


「臨済録」現代語訳は、全文の推敲を終えたら関連する地図、臨済の生きた時代の年表などと合わせて書籍にする予定です。

 

臨済録原文全文リンク

 

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