行錄(11)「已後坐卻天下人舌頭去在」(将来、天下の人々の舌頭を押さえて座り込むこともあるだろう)「臨済録」より

2023-07-13

古典 臨済録

已後坐卻天下人舌頭去在

 

こんにちは、暖淡堂です。

「行錄」の11回目です。

臨済は夏安居げあんごの最中に黄檗山に戻ります。

そこで黄檗は臨済に法の伝授が終わったことを告げようとしますが、臨済は思いがけない反応を見せます。

それはどのようなものだったでしょうか。



臨済録の原文全文は以下のリンクからご確認ください。 

「喝!!」の声が戦乱と混沌の世に響いた 臨済の生きた時代


  

師因半夏上黃檗、見和尚看經。

師は夏安居の半ば頃、黃檗のもとに戻り、黄檗和尚が看経しているのを見た。


師云、我將謂是箇人、元來是唵黑豆老和尚。

師は言った、私はこの人こそはと思っていたが、そもそもはただの黒豆喰い(お経の文字を拾って読む)の老和尚だったのか、と。


住數日、乃辭去。

数日して、そこを去る挨拶をした。


黃檗云、汝破夏來、不終夏去。

黃檗は言った、汝は夏の安居の途中で来て、安居が終わらないうちに去るのか、と。


師云、某甲暫來禮拜和尚。

師は答えた、私はちょっと和尚の顔を見ようと思って来ただけですから、と。


黃檗遂打、趁令去。

黃檗はそこで一打を与え、追って立ち去らせた。


師行數里、疑此事、卻回終夏。

師は数里歩いたところで、さて、これはどのようなことかと疑い、道を引き返して黄檗のもとに戻って夏を過ごした。


師一日、辭黃檗。

師はある日、黄檗に立ち去る挨拶をした。


檗問、什麼處去。

黄檗は問うた、どこに行こうというのか、と。


師云、不是河南、便歸河北。

師は言った、河南に行くのでなければ、河北に帰りましょう、と。


黃檗便打。

黃檗はそこで打った。


師約住與一掌。

師はそれを押さえて手のひらで打ち返した。


黃檗大笑、乃喚侍者、將百丈先師禪板机案來。

黃檗は大笑し、侍者を呼んで、百丈先師の禅板机案を持って来い、と言った。


師云、侍者、將火來。

師が言った、侍者よ、火も持って来い、と。


黃檗云、雖然如是、汝但將去。

黃檗は言った、そう言うが、まあそのまま持って行きなさい。


已後坐卻天下人舌頭去在。

将来、天下の人々の舌頭を押さえて座り込むこともあるだろう、と。


後溈山問仰山、臨濟莫辜負他黃檗也無。

後に溈山が仰山に問うた、臨済は黄檗の期待を裏切ったことにはならないだろうか、と。


仰山云、不然。

仰山は答えた、そうではありません、と。


溈山云、子又作麼生。

溈山は言った、それをそなたはどう考えるのだ、と。


仰山云、知恩方解報恩。

仰山は答えた、恩を知っていたので、よく恩に報いることができたのです、と。


溈山云、從上古人、還有相似底也無。

溈山は言った、上古の人に、似たようなことがあっただろうか、と。


仰山云、有。

仰山は答えた、有りました。


祇是年代深遠、不欲舉似和尚。

ただそれは年代がとても遠いので、和尚にお話ししようとは思いません、と。


溈山云、雖然如是、吾亦要知。

溈山は言った、それがそうだとしても、吾もまた知りたいのだ。


子但舉看。

まあ、話してみなさい、と。


仰山云、祇如楞嚴會上、阿難讚佛云、將此深心奉塵剎、是則名為報佛恩。

仰山は言った、楞厳会において、阿難が仏陀を讃じて、まさにこの深心を塵剎(無数の国土)に奉る、このことを仏恩に報ずと為すと言ったがごとし。


豈不是報恩之事。

これが仏恩に報いるということではないでしょうか、と。


溈山云、如是如是。

溈山が言った、まさにその通りだ。


見與師齊、減師半德。

得られた見識が師とひとしければ、師の徳を半減するようなもの。


見過於師、方堪傳授。

見識が師を超えてこそ、まさに伝授に堪えるのだ、と。


 

黄檗は、自らのもとから独立しようとする臨済に、百丈和尚から受け継いだ禅板と机案を渡そうとします。

しかし臨済はそれを燃やしてしまおうとします。

臨済は、物を受け取ることを法の伝授の証にするようなことはしたくなかったのかもしれません。

後、このやり取りについて溈山と仰山が話をします。

溈山は法の伝授について、次のようにいいます。

師の見識と同じであれば、師の恩徳を半減するようなもの。

師を超えてこそ、伝授と言いうるのだ。

溈山は、臨済が黄檗を超えている、だから法の伝授はなされたのだ、と言っているようです。


*****


「臨済録」現代語訳は、全文の推敲を終えたら関連する地図、臨済の生きた時代の年表などと合わせて書籍にする予定です。

 

臨済録原文全文リンク

 

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