勘辨(22)「祇聞空中鈴響、隱隱而去」(ただ空中に響く鈴の音が、ありありと耳の底に聞こえ、それが遠ざかって行くのみであった)「臨済録」より

2023-06-30

古典 臨済録

祇聞空中鈴響、隱隱而去

 

こんにちは、暖淡堂です。

「勘辨」の22回目です。

「勘辨」の最後で、また普化が出てきます。

とても面白いエピソードが書かれている部分です。

まるで短編小説のようです。

普化はどのような振る舞いを街中でしているでしょうか。



臨済録の原文全文は以下のリンクからご確認ください。 

「喝!!」の声が戦乱と混沌の世に響いた 臨済の生きた時代


  

普化一日、於街市中、就人乞直裰。

普化がある日、街の中で、僧が着る衣服を施してくれないかと人々に頼んでいた。


人皆與之。

人々はみな僧のための衣服を施した。


普化俱不要。

しかし普化は、そのどれをも受け取らなかった。


師令院主買棺一具。

師は院主に棺一式を買って用意させた。


普化歸來。

普化が帰って来た。


師云、我與汝做得箇直裰了也。

師は言った、私は汝のために僧衣を用意しておいたぞ、と。


普化便自擔去、繞街市叫云、臨濟與我做直裰了也。

普化はそれを自ら担いで寺を出て、街中を巡りながら叫んで言った、臨済が我のために僧衣を用意してくれたぞ、と。


我往東門遷化去。

我は東門に行って、そこで遷化しよう。


市人競隨看之。

街の人々は競うように彼について行って、それを見ようとした。


普化云、我今日未、來日往南門遷化去。

普化は言った、今日ではなく、明日南門に行って遷化する、と。


如是三日、人皆不信。

このようにして三日経つと、人は皆信じなくなった。


至第四日、無人隨看。

そして四日目には、もう誰もついてこなくなった。


獨出城外、自入棺內、倩路行人釘之。

そこで普化は一人城外に出て、自ら棺內に入り、行き合わせた人に頼んで蓋を釘で打ち付けてもらった。


即時傳布。

このことはすぐに街中に広まった。


市人競往開棺、乃見全身脫去。

人々が先を争うようにして行き棺の蓋を開けてみると、何一つないもぬけの殻だった。


祇聞空中鈴響、隱隱而去。

ただ空中に響く鈴の音が、ありありと耳の底に聞こえ、それが遠ざかって行くのみであった。


 

陰々と鈴の音が聞こえ、それが遠ざかっていく。

そのようにこの「勘辨」編は終わります。

「勘辨」で語られたことから、私たちはどのようなものを感じとれたでしょうか。

それを振り返るとき、耳の奥で微かに響く音が聞こえているような気がします。

そして、それは次第に遠ざかっていきます。


次回から「行錄」の部分になります。

引き続きよろしくお願いします。


*****


「臨済録」現代語訳は、全文の推敲を終えたら関連する地図、臨済の生きた時代の年表などと合わせて書籍にする予定です。

 

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