こんにちは、暖淡堂です。
「臨済録」の内容を紹介しています。
前回の記事は序文でした。
「臨済録」に書かれている内容をざっと理解するためには好適な文章になっています。
今回から「上堂」の部分に入っていきます。
まずは冒頭です。
臨済は河北の滹沱河を臨む院の住持となって(臨済と呼ばれるようになった由縁です)からは、河北の地を中心に教えを広めていました。
この「上堂」部分は、当時河北を治めていた藩鎮の一つ、成徳府(成徳軍節度使)主の王常侍に依頼されて行われた説教の記録です。
河北とは、中国の中原を流れる黄河の北という意味です。
また藩鎮とは、唐の時代の後半にかけて発生した安史の乱などの混乱や異民族の侵入などに対応するため、国の周辺部に置かれた軍事組織です。
これがやがて独立勢力となり、軍閥化していきました。
唐は結局はこの藩鎮勢力と宦官の専横によって乱れ、弱体化し、滅んでいったといえます。
藩鎮の治めていた地域は、国の中央と距離的に離れていただけではなく、政治的にも独立性の強いところでした。
そのため、国の中央では仏教の弾圧が起きていても、河北の藩鎮ではその弾圧は比較的緩やかであり、場所によってはむしろ保護されていたこともあったようです。
この「上堂」では、臨済と、聴衆となった僧たちとの生き生きとしたやりとりが楽しめます。
また、臨済禅を理解するためのキーワードがいくつか出てきます。
各キーワードについては、出てくる際に改めて説明いたします。
「上堂」部分を読み込むことで、「臨済録」全体のエッセンスが理解できます。
本ブログでは、数回に分けて「上堂」の原文と現代語訳を紹介します。
内容をお読みいただき、「臨済録」の魅力に触れていただければ幸いです。
鎮州臨濟慧照禪師語錄。
住三聖嗣法小師慧然、集す。
「上堂」
府主王常侍、與諸官請師升座。
成徳府主の王常侍が諸官とともに師に説法を依頼した。
師上堂云、山僧今日事不獲已、曲順人情、方登此座。
師は法堂の座に上がって言った、山僧は今日やむを得ず、人情にしたがうこととし、まさにこの座に登ってしまったところだ、と。
若約祖宗門下、稱揚大事、直是開口不得、無爾措足處。
しかし、もし禅宗の門下の者として、大事な教えを説こうとするならば、そのとたんに口が開かなくなり、諸君もどこを理解の手がかりとするかわからなくなるだろう。
山僧此日以常侍堅請、那隱綱宗。
そうではあるが、今日山僧は常侍のたっての願いに応じ、禅の根本の教えを隠さずに示すことにした。
還有作家戰將、直下展陣開旗麼。
さて、まずはだれか有能な武将のように、陣を組み旗をなびかせて挑むものはないか。
對衆證據看。
皆の前で、その腕前を見せてみよ。
僧問、如何是佛法大意。
そこで、一人の僧が尋ねた、仏法の究極の教えとはなんでしょう、と。
師便喝。僧禮拜。
師はそこで一喝した。僧は礼拝した。
師云、這箇師僧、卻堪持論。
師は、この者は、そこそこ私と相手になれるな、と言った。
問、師唱誰家曲、宗風嗣阿誰。
他の僧が質問した、師は誰のところで教えを受け、誰の宗風を引き継いでいるのですか、と。
師云、我在黃檗處、三度發問、三度被打。
師は言った、私は黃檗のところにいて、三度質問して、三度打たれた、と。
僧擬議。
僧はすぐに受け応えができなかった。
師便喝、隨後打云、不可向虛空裡釘橛去也。
師はすぐに一喝し、すばやく一棒をくらわした。そして、なにもない空中に釘を打つことなどできないぞ、と言った。
有座主問、三乘十二分教、豈不是明佛性。
座主、すなわち禅堂の主座にある僧が質問した、すでに三乗教や十二分教に仏の教えが全て説かれていますが、それらで仏性は明らかに示されてはいないのでしょうか、と。
師云、荒草不曾鋤。
師は応えた、荒れ地の草はそんなものではまだ取り除かれてなどいないのだ、と。
主云、佛豈賺人也。
座主は言った、仏は私たちをいいくるめようとしているということですか、と。
師云、佛在什麼處。
師が言った、そもそも仏はどこにあるというのだ、と。
主無語。
座主は答えられなかった。
師云、對常侍前、擬瞞老僧。
師は言った、常侍殿の面前で、この老僧の目をくらまそうというのか。
速退速退。
さっさと退がれ、退がれ。
妨他別人諸問。
他の者の問いの邪魔になる。
復云、此日法筵、為一大事故。
また言った、今日ここで集まって話をするということは、思いがけずとても大事なものに迫ることになるかもしれないのだ。
更有問話者麼。
さあ、さらに問おうとするものはないか。
速致問來。
はやく出てきて問いを投げかけろ。
爾纔開口、早勿交涉也。
しかし、わずかでも口を開けば、もはやその大事なものとは何の関係もなくなってしまう。
何以如此。
どうしてそうなってしまうか、わかるか。
不見釋尊云、法離文字、不屬因不在緣故。
釋尊も言われているではないか、仏法は文字を離れ、因に属さず、縁にもよらないのだ、と。
為爾信不及、所以今日葛藤。
それなのに、君たちがそれを心から信じきれないから、今日もまた心に葛藤が生じているのだ。
恐滯常侍與諸官員、昧他佛性。
こんなことでは、ここにいる常侍殿と諸官員との目をくらまして、仏性とはなにかを分からなくしてしまう。
不如且退。
さっさと引き退った方がよさそうだ。
喝一喝云、少信根人、終無了日。
師は終わりに一喝して言った、信じ切ることのできない者には、修行の終わる日は来ない、と。
久立珍重。
ご苦労だった。
臨済録の原文全文は以下のリンクからご確認ください。
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